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聖凡人伝 09巻  

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巻頭カバー■夏が暑いのはあたりまえ。自然の摂理にさからうことはない。出戻始の生活は、理解ある早名さんと、頑張っている小久保さんと、下宿のおばさんに囲まれて果てしなく続く。男には無限の可能性がある。先はまだ長い。チャンスはまだある。なるようになるのだ・・・・・・。
■ペーソスあふれる筆致で、不滅の青春を描いた松本零士の”大”四畳半マンガ。愛蔵版第9弾!! 完結篇!!
収録「聖凡人伝」09巻全編
初出1971(昭和46)年『漫画ゴラク』8月19日号
奥付■奇想天外コミックス■
聖凡人伝⑨
1979(昭和54)年04月10日 初版発行
巻末 合成体験人物親友出戻始   松本零士

 先の事など思いわずらう事なく、日々なるようになると、ゴロゴロ生きられたらどんなにいいだろうと、自らの願望を託して描き続けたのがこの『聖凡人伝』である。
 願望的主人公に夢を託して描いてゆきながら、ふとある日気付いた事があた。自分を含め、友人その他、過去から現在までの身の回りに実在した人物を、その性格の一部分ずつを合成してみると、出戻始的人物が確かに出来上がるではないかと・・・・・・隣のおっさん的人物が自然発生的に出来てしまうではないかと・・・・・・・・・
 そう気がつくと、登場人物たちに血が通うことおびただしく、気が乗る事もはなばなしくて、とても楽しく、つい長さも忘れてゴロゴロ描き続ける事数年、それこそ願望の中の願望たる女性・早名礼子さんに願望の全部をひっかぶせて、これを描いている間中、実に幸せな気分だった。理屈があったような、なかったような現実の下宿生活に比べ、合成体験人物たる出戻始の生活は、まさしくかくありたかったと考えるその代弁者として、生き生きとして永遠にゴロゴロと時間の中にコロがっていてくれた。
 私は時々この出戻始やその他大四畳半に生きた合成体験人物と、過ぎていった自分の体験との区別がつかなくなる時がある。
 こういう時にはこうするにちがいない、ああいう時にはああするにちがいないという反応の全てが、自然発生的に湧き出して来て、描きつつこれほどペンが自然に動いた事は他に例を見なかった。
 この中には年をとらない自分や友人達の青春がある。当時無限大の可能性があると思っていた不滅の青春があると、嬉々として描いて描いて信じていた不滅の青春と同じく、この物語は、出戻始の生活には、終りというものがなく、これは永久にでも続けられるのではないかと考えると、なかなか四次元的に楽しかった。
 時の経過を零として進められる物語の、何と血湧き肉おどる事か! この中で、出戻始も、自分にとっては実在の親友の一人として、酒を飲み共にかたわらでワメキくだをまき、机をたたいて涙を流してくれるかけがえのない友として、いつのまにか、離れられない男になってしまった。ただひとつ反省しているのは、回を追うごとに、画面に出る酒の分量がふえていった事である。こんなに酒を飲んでいてはダメではないかと人にも言われたが、多少のうしろめたさもあって、自らの内なる出戻始は、酒は飲むが飲まれる事はない。酒は飲んだ事のない者にはわからんのだと、声を大にして語りつつとどまる所を知らず、誌上での連載が終っても、今も出戻始とその一族は、胸の内で日々ゴロゴロコロがり続けている。幸せというほかはない。   52年3月

 -「聖凡人伝①」(文庫版)より転載-
著者松本零士
©LEIJI MATSUMOTO 1979
発行者千頭俊吉
印刷所サンビルド印刷株式会社
発行所株式会社奇想天外社
東京都新宿区赤城元町28
電話 (03)268-8617, 268-8653
振替口座 東京3-100293 郵便番号162
定価480円
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